南城市で「人と自然のつながりを取り戻す」ことをテーマに活動している田中さん。
活動は多岐にわたり、現在は自然と暮らしをテーマにしたオルタナティブスクール「暮らしの学校」が中心だ。
その他にも、子どもの居場所づくりや、自然を保全しながら観光を成り立たせるエコツーリズム、
誰もが秘密基地を作るような感覚で集える「場所づくり」を南城市の森の中でなぜ行っているのか、
お話を聞きました。

祖父母の「暮らし」が教えてくれたもの
田中さんが今の活動をする原体験は、幼少期に祖父母の元で過ごした「自給自足の暮らし」にある。
自然の中で過ごすことは、「美しいな」「いいな」と感じる一方で、「大変だな」と思うことももちろんあった。
美しさ、厳しさ、そして暮らしの知恵、それらが深く刻まれたその経験があったからこそ、今の田中さんがある。
その後、社会に出てからは、海が好きだったこともあり、ダイビングショップなどのツアーガイドとして働く。
ただ、その仕事を長く続けられず、自分で会社を立ち上げることにしたという。
引き寄せられた仲間たち、突きつけられた現実
会社を立ち上げた際、田中さんの元には、少し「デコボコな」スタッフがなぜか集まってきたという。
彼らは昔引きこもりだったり、非行経験者だったり、中学校にほとんど通えなかった人たちなど。
田中さんは、彼らを仕事の仲間として接しながら立ち直らせ、社会復帰させる活動を、意図せずして行っていた。
自身が貧しさから大学に行けなかった経験もあり、そういった人々を自然と引き寄せていたのかもしれない、と話す。
「彼らがもう少し輝けるようになってほしい」、そう思いながら日々を過ごしていた。
しかし、ある出来事が田中さんを大きく揺さぶる。
引きこもりを長年経験し、社会復帰を望んで来たスタッフが、自ら命を絶つという現実に直面する。
途中まで「再生させるようなことができている」「仲良くやれている」と思っていただけに、大きな衝撃だった。
さらに、セキュリティ関連の事業を通じて少年犯罪の現場に立ち会うたび、
「なぜ彼らは立ち直れないのか」「再犯を繰り返すのか」という問いに深く突き動かされる。

すべてが凝縮された南城市での再始動
探求の果てにたどり着いたのは、一つの真理。
幼少期の自然の中での体験こそが、困難な状況で自力で立ち直る力の源である、という確信だった。
自身の経験と、幼い頃に自然へ連れ出してくれた恩人たちへの恩返し、そしてこの確信に基づき、
14〜15年前にそれまでの事業を辞し、現在の活動を始めることを決めた。
活動を始めるにあたり、やはり自然といえば「沖縄」だと感じた田中さん。
そして、沖縄中で探し回り、11年前に南城市に移住する。
田中さん曰く、南城市は「全てが揃っている場所」。海、山、川、そして祈りの地や文化が、狭い地域に凝縮している。
他の地域では自然が大きくても文化が無かったり、移動にかなり時間を要する場所であったり。
「南城市は、10分もあれば海も山も川もある。自然と暮らしと人を近づける、
活動に最高のコミュニティと環境がここにはある。」と話す。

自由に過ごす子どもたちの居場所に
現在、活動の主軸となっている「暮らしの学校」。
週3回の体験型のフリースクールで、学校に馴染めない子や、自分のペースで学びたい子どもたちが、
個性や興味を大切にしながら過ごせる場所であるという。
大切にしているのは、子どもたちに「自分らしく」あってほしいということ。
みんなが同じことをしなくてもいい。頭ごなしに怒ることはせず、互いの気持ちを確かめ合うようにしている。
もちろん学校なので最低限の規律は必要ではあるが、
「これはこういうものだ」と決めつけることはせず、子どもたちにはある程度自由でいてほしい。
この学校に来る外部の先生方がよく言うのは、「ここの子どもたちは、大人を怖がっていないね」ということ。
知らない人が来ても「おじさんこんにちは!」と話しかけてくる。
一般的な学校に通う子の中には、大人の様子をうかがったり、怖がっている面があるという話を聞くと、
自身の取り組みの手応えを感じるという。彼らは自由に、誰にも怖がらずに過ごしている。
子どもたちと作った物が喜ばれる瞬間
田中さんにとって最高の喜びを感じる瞬間は、子どもたちが自分たちで遊び場を「作った」時だという。
「プレーパーク(冒険遊び場)として場所を解放し、子どもたちと一緒に木製の滑り台やターザンロープなどの
設備や遊び場を作ります。そして、外部からのお客さんである小さい子どもたちが、
楽しそうに遊んでいるのを見る瞬間。その時、遊び場を作ったうちの子どもたちが「してやったり!」と
喜んでいる姿を見るのが、最高に楽しい。」
外部の大人たちからも、「うちの子がこんなに喜んで泥んこになって遊ぶ姿を初めて見た」と言われると、
作った子どもたちと一緒に「よっしゃ」という達成感を感じているという。
エコツーリズムでも同じ。
都会の中で疲れてガチガチになっている人が、解放されにここに来て、「価値観が変わった」と言ってくれる瞬間。
水しぶきの一滴を見るだけでも心が清らかになったと感じてくれたり、小さな事に気づく瞬間。
世界中から来たボランティアの旅人が、自然保全活動を通して、自身と同じような感覚や発見をしてくれる時も、
どれもが田中さんにとって、大きなやりがいを感じる瞬間だという。

世の中の「おかしい」を語り合える場所に
これまでの活動で多くの実りを得た田中さんが今見つめているのは、次世代への継承。
場所作りも含め、「人と自然のつながりを環境と共に取り戻す」という自身の考え方を継いでくれる人を育てることが、今後の大きな展望だと話す。
「家族連れの方であれば、親子で冒険遊び場に来て、思いっきり遊んで欲しい。
そして、もし今の暮らしや、世の中の状況に対して「何かおかしいよね」と感じているならば、ぜひここに来て、話ができたり気づきができたら。私自身がすべての答えを持っているわけでは無いですが、みんなが語り合うことによって、自分なりの答えや気づきができるかな。」
コンポスト作りからゴミについて考えるワークショップなど、
自然の中で心地よく過ごす暮らし方を学ぶプログラムもたくさんある。
年齢や背景を問わず、それぞれの人がそれぞれの形でここでつながり、楽しむことができる。
森の中の秘密基地のようなこの場所を訪れ、ここで新しい一歩を踏み出してみませんか。














