「最後は人ですよ。つくづくそう思うんです。仕事をしていても、人生においても」。
南城市で養蜂業を営みながら、地域のスポーツクラブを主宰する金城さんは、穏やかに語る。
彼の口から繰り返し聞かれるキーワードは「コミュニティ」。
地域に根差して取り組む二つの事業がどのようにして活動されてきたのか。その軌跡をたどる。

子どもを思い踏み出した一歩
金城さんのキャリアのスタートはデザイナー。広告はもちろん、店舗内装などの仕事も多かったという。
デザインという仕事は、突き詰めれば「伝えること」。意思を伝えること。
そのためのスキルは、50歳頃には限界が来るだろう、と予測したという。
「才能やセンスがあるわけじゃない、と自覚していたから。」と話す。
そんな迷いがある時期に、家族で南城市へ引っ越したという。
都会の方から自然豊かな場所へ引っ越したのは、子どもの為を思ってのことだった。
しかし、長男に言われた「お父さんとお母さんはいいさ。僕なんかは友達と別れるんだよ」。
この言葉が、金城さんにとって大きな転機となる。
「この子の為にも、受け身ではなく、積極的に地域活動をやらなければいけない。」
そう決意して動き始めたのが、現在の活動の出発点。
活動を通じて、改めて「人の大事さ」、そして「コミュニティの大切さ」に気づいたという。

ライフワークで「コミュニティ」を育む
金城さんは、ライフワークと生活の基盤、二つの活動を同時期にスタートさせる。
ライフワークのスポーツクラブの地域活動を始めたのは、長男が小学校3年生の時、
「サッカーがしたいけどチームがない」と言ったのがきっかけ。
立ち上げたのは総合型地域スポーツクラブ「TEAMたまぐすく」だった。
子供たちがサッカーを卒業しても、金城さんは監督として残り、
そして10年かけて実現させたのが、「卒業生たちが指導者として帰ってくる仕組み」だという。
社会人向けのフットサルを運営することで、卒業生が戻れるコミニティを作る。
フットサルチームには、クラブの卒業生も多く、金城さんが教えていた子や、その次の世代の優秀な子達たち。その中から10名ほど「指導者」として登録してくれているのだという。
その他にも、ご婦人向けのエクササイズ、社会人向けのテニポンなど大人向けのクラブも実施しており、
子ども向けサッカークラブを見守る、若い指導者たちをボランティアではなく、
謝礼を渡せるような仕組みで運営している。
生活の基盤として「コミュニティ」を育む
南城市に引っ越してから10年ほどは、情報収集しながら自然豊かなこの地で続けられる仕事を模索していた。
生活の基盤、腰を据えてできる仕事として選んだのが、友人を通して紹介してもらった養蜂業だった。
沖縄の気候は養蜂にとって決して楽ではない。台風、長い梅雨、蜜源が少ない、という三重苦。
蜜蜂が増える春先に、梅雨の長雨で花が散り、蜜も流れてしまう。さらにその後に台風が来る。
本土の知識は通用せず、地元の経験で対応していくしかない。自然との対話で、日々考え続ける仕事だという。
金城さんはあえて、蜂たちの食料として蜜を全て取らず、半分は巣に残すやり方を行う。
また、蜜源を少しでも確保する為、畑にアフリカンブルーバジルを植え、砂糖水などは与えない手法だ。
そして、このハニーキッチンという名で行うお店も、ただ蜂蜜を売る場所ではない。
ワークショップやマルシェを通じ、お客様同士が”地域を楽しむコミュニティの拠点”となることを目指している。
蜂蜜販売という基盤に、コミュニティ活動が乗っかることで相乗効果が生まれていく。
これが金城さんが考えている安定した経営。


心地よい”距離感”が鍵となる
中山の区長も務めている金城さん。
昔ながらの地域でのコミュニティは、良くも悪くも距離が近すぎる為、人間関係が複雑になりがち。
「こんなにとってもいいコミュニティがあるのに、もっといつも笑顔でやれないの?と思うんですけど、
やっぱりなかなかそれが難しい」、と笑いながら話す。
一方で、運営するスポーツクラブのメンバーは「いい距離感」で、みんなが楽しめる空間を意識しているという。
こども向けのサッカークラブは、週1回の練習のみ。上手くなる事、や体を鍛える事が第一の目的ではなく、
「子どもたちが楽しいと思える事」を一番重要視して運営している。
この「心地よいコミュニティ」を築くことこそが、金城さんの活動のベースに常にある考え方。
お互いに距離感のいい、気持ちのいい付き合いができれば、そのまま人生を全うできるんじゃないか。そう思っている。

生活していて心地いい地域にする為に
南城市に移り住んで、22年になる。
そして実際にスポーツクラブを運営している今、「農業をしている人達、特に朝の時間が早く動ける人たちは、
スポーツ活動の指導者として”最適”なんじゃないか」、と感じている。
「例えば、業務契約の中に週3日は地域活動すると盛り込む、とか。それぐらいの企業が出てきても嬉しい。」
地域に根差した若い働き手が、農業などの生業で生活を支えながら、子どもたちを指導する。
この形こそが、地域の課題を解決し、コミュニティを支える本来の形だと感じている。
子供達は、「プロじゃなくても毎日来てくれて、褒めてくれる地域のお兄ちゃん」の指導の方が絶対に嬉しい。
その、”地域のお兄ちゃん”がクラブの卒業生だとしたら「蜂蜜ならハニーキッチンのおじちゃんが作ってるよ」と繋がりが広まるかもしれない。地域のお客さんが増え、新しいコミニティが増えていく。
金城さん自身が実践している、ライフワークと生活の2つの活動。このモデルケースを見て、
「やってみたい」と思ってくれる若い世代に出会えるか。それが次の目標。
金城さんは今、自らの生き方と事業を通じて、
地域と未来へ「心地よいコミュニティ」の価値を伝え続けている。
どちらも欠かせず、お互いに影響を与え合いながら、南城市に豊かさをもたらしている。















